私たちの日常にあふれる「青」。
ワードローブに必ずと言っていいほど存在するデニムをはじめ、現代社会で私たちが目にしているその青の99%は、植物由来の「藍」ではありません。
では、藍染とは一体何なのでしょうか。
なぜ古来より人はこの色に魅了され、途方もない手間をかけて色を引き出してきたのか。今回は、その歴史とメカニズムのご紹介です。
ジャパン・ブルーの記憶と、備後の風土
藍染が日本に広く根付いたのは鎌倉時代のこと。深く濃い藍色は「褐色(かちいろ=勝色)」と呼ばれ、縁起の良い勝負色として武士たちに深く愛されました。江戸時代に入ると、虫除けや消臭効果、生地を丈夫にするという実用性から庶民の野良着などにも用いられ、日本の風景は文字通り「青」に染まりました。
私たちが工房を構える備後地方(広島県福山市周辺)もまた、古くからの絣(かすり)やデニム産業の聖地として発展してきた歴史を持ちます。この土地の風土には、藍との深い関わりと歴史が息づいています。
藍が染まる仕組み:化学反応ではなく「生き物との対話」
藍染に用いる、藍の葉に含まれる青い色素(インジカン)は、そのままでは水に溶けず、布に染めることができません。
そこで私たちは、微生物の力(発酵)を借ります。畑で育てた藍の葉を約120日かけて発酵させて「蒅(すくも)」を造り、さらに甕(かめ)の中で木灰汁(あく)など自然界の素材だけを用い、微生物を育てながら色を建てるのです。
黄色から緑褐色をした染液に布を浸し、引き上げて空気に触れさせた瞬間。酸素と結びつくことで、初めてあの深く美しい「青」が劇的に発色します。
合成インディゴと「天然藍」の違い
19世紀末に発明された合成インディゴ(化学染料)は、石油由来で、強力な化学薬品を用いることで短時間で色素を引き出すことを可能にしました。効率的で、安価で、常に均一な色を大量生産できる。現代のアパレル産業を支えているこの技術はとても素晴らしいものであると私たちも考えています。
しかし、私たちが選んだのは、日本に古くから伝わる「天然灰汁発酵建て」という伝統的な技法です。
毎日藍と向き合い、土から育て、すべての工程に手をかけても、甕の中で生きている微生物が放つ色を、私たちが完全にコントロールすることはできません。その日の気温、湿度、微生物の機嫌によって、色は常に揺らぎます。
自然の産物であり、毎日向き合うわたしたちでさえ完全には理解の及ばない、不思議な色の持つ魅力。
均一でない揺らぎがあるからこそ、作り手の想いや土地の記憶、使い手の愛着が宿ります。
色のなかったものに、確かな色を与えること。自然の揺らぎや時間の重なりを、日常で息づく「かたち」として届けること。それが、私たちの掲げる「色をつくっている」という思想です。